このページはメンゲルベルクのベートーヴェン交響曲第5番の演奏について、分析した結果を掲載しています。
結論
Teldec 4509-95515-2は、CDジャケットに録音日付が1937年5月4日と記載されていますが、1942年4月15日のGramophone recordingであると考えられます。
現在、CD化されているメンゲルベルクのベートーヴェン交響曲第5番の録音は、以下の通りです。
1922年4月11日 Gramophone recording (第1楽章のみ)
1937年5月4日 Gramophone recording
1940年4月18日 Live recording
1942年4月15日 Gramophone recording
分析根拠
リファレンスとしては、オランダのウィレム・メンゲルベルク協会の日付を使用します。
NYPO, dinsdag, 11 april, 1922
CGO, dinsdag, 4 mei, 1937
CGO, donderdag, 18 april, 1940
CGO, woensdag, 15 april, 1942
以下のCD6種を分析しました。
1922年4月11日 Gramophone recording
第1楽章のみ (他の楽章は録音されなかったようです)
VN-01842
1937年5月4日 Gramophone recording
VN-01829 ※CDジャケットには1937年4月5日と記載されていますが誤記です。
1940年4月18日 Live recording
MR2171
VN-01812
1942年4月15日 Gramophone recording
Teldec 4509-95515-2 ※CDジャケットには1937年5月4日と記載されていますが誤記です。
波形観測(楽章別)
第1楽章
VN-01842 1922年4月11日 Gramophone recording
VN-01829 1937年5月4日 Gramophone recording
PROC-1897 1940年4月18日 Live recording
MR2171 1940年4月18日 Live recording
VN-01812 1940年4月18日 Live recording
Teldec 4509-95515-2 1942年4月15日 Gramophone recording
第2楽章
VN-01829 1937年5月4日 Gramophone recording
PROC-1897 1940年4月18日 Live recording
MR2171 1940年4月18日 Live recording
VN-01812 1940年4月18日 Live recording
Teldec 4509-95515-2 1942年4月15日 Gramophone recording
第3楽章
VN-01829 1937年5月4日 Gramophone recording
PROC-1897 1940年4月18日 Live recording
MR2171 1940年4月18日 Live recording
VN-01812 1940年4月18日 Live recording
Teldec 4509-95515-2 1942年4月15日 Gramophone recording
第4楽章
VN-01829 1937年5月4日 Gramophone recording
PROC-1897 1940年4月18日 Live recording
MR2171 1940年4月18日 Live recording
VN-01812 1940年4月18日 Live recording
Teldec 4509-95515-2 1942年4月15日 Gramophone recording
波形比較結果
1922年4月11日、1937年5月4日、1940年4月18日、1942年4月15日の4種類の録音とも、それぞれに特徴が異なり別録音であることが確認できました。
1940年4月18日については、3種類のCDを比較しています。
外見上は波形振幅に大きな違いがありますが、CD化時点の収録音量やノイズ加工処理によるものであり、演奏上の特徴(波形の抑揚を表す傾きや時間)からは同一の演奏の録音であると判断できます。
PROC-1897は、楽章間のチューニングや演奏後の拍手など収録されています。
MR2171は、ノイズ含めて録音されている情報量が多く、聴いていると生々しさが一番あります。
演奏時間(第1楽章)
参考までに、第1楽章の演奏時間だけ計測結果を比較します。
第1楽章は休符で始まりますので、最初の音から最後の音までを計測した時間です。
VN-01842(1922): 6:17
VN-01829(1937): 7:52
PROC-1897(1940): 6:17
MR2171(1940): 6:16
VN-01812(1940): 6:17
Teldec 4509-95515-2(1942): 7:42
オランダのウィレム・メンゲルベルク協会のデータでは以下となります。
NYPO, dinsdag, 11 april, 1922: 6:25
CGO, dinsdag, 4 mei, 1937: 8:01
CGO, donderdag, 18 april, 1940: 6:37
CGO, woensdag, 15 april, 1942: 7:48
興味深いことに、NYPとのセッション録音と1940年のライブでは6分17秒くらいなのに比べ、
コンセルトヘボウとのスタジオ録音では7分後半という時間をかけた演奏になっています。
これをどう解釈して良いのか悩ましいところですが、メンゲルベルクとしては7分後半という解釈をしているものの、ライブで興が乗る(力が入る?)と速めの演奏となるということでしょうか。
聴いた印象
4種類ありながら、どれも印象の異なる演奏です。
誤解を恐れずにワンセンテンスで印象を記すとこんな感じです。
1922年のNYPはポルタメントが一番効かせている演奏(艶めかしく感じます)
1937年は推進力のある演奏(颯爽さと爽快感を感じます)
1940年はライブだけあって表情付けが一番濃密な演奏(演奏にひきづりこまれます)
1942年はスタカートが一番強調されている演奏(歯切れよく感じます)
個人により印象は異なります。
波形観測(第1楽章冒頭部)
さらに詳細に比較するため第1楽章冒頭部の波形を掲載します。
VN-01842 1922年4月11日 Gramophone recording
VN-01829 1937年5月4日 Gramophone recording
PROC-1897 1940年4月18日 Live recording
MR2171 1940年4月18日 Live recording
VN-01812 1940年4月18日 Live recording
Teldec 4509-95515-2 1942年4月15日 Gramophone recording
1922年の演奏では、比較的おとなしめの演奏ですが、1937年の演奏ではメンゲルベルクらしい第1主題の演奏となっています。
驚きなのは1940年のライブ録音で、60小節から始まるクレッシェンドが78小節に至るあたりには凄まじい表情付けがなされています。おそらく当日コンセルトヘボウのコンサートホールにいた聴衆は思わず息を飲んだのではないかと思います。
一方1942年の演奏では、ソ・ソ・ソ・ミと一音一音念を押すような、独特な演奏をしています。
この時点では、各演奏とも演奏時間に差は出ていません。
(それでも最短と最長で2秒近くの違いはあります)