このページは1938年録音とされているメンゲルベルクのベートーヴェン交響曲第9番の演奏について、分析した結果を掲載しています。
リファレンスとしては、オランダのウィレム・メンゲルベルク協会の日付を使用します。
1938年5月31日
1938年6月1日
こちらの6月1日という録音月日は、”Date uncertain”ということですから、別の録音日の可能性も残されています
CD3種を分析しました。
結論からすると、以下であると考えます。
1938年5月31日の録音:VN-01825
1938年6月1日の録音:CD 918、MR2170
では、以下に推定根拠のデータを掲載します。
CD属性
CDタイトル:Beethoven: Complete Symphonies
CD番号:MR2170 (5枚組の交響曲全集の5枚目)
メーカー:Memories
CD記載の録音日時:1938年5月31日
CDタイトル:Mengelberg Conducts Beethoven Symphony No.9 “Choral” 1938 Live Performance
CD番号:CD 918
メーカー:Music & Arts
CD記載の録音日時:1938年5月1日
CDタイトル:Willem Mengelberg The Collection
CD番号:VN-01825 (CD BOXの中の25枚目)
メーカー:VENIAS
CD記載の録音日時:1938年5月1日
CDで記載されている演奏時間(CD収録時間)
実際に演奏時間を実測した比較も実施しました
【実測】メンゲルベルクのベートーヴェン交響曲第9番 1938年録音を分析した結果
MR2170
CDに再生時間の記載がありません。
CDプレイヤーの表示再生時間読みを掲載します
第1楽章:15:48
第2楽章:12:29
第3楽章:16:37
第4楽章:26:58
CD 918
第1楽章:15:06
第2楽章:12:10
第3楽章:16:31
第4楽章:27:02
VN-01825
第1楽章:15:14
第2楽章:12:07
第3楽章:16:17
第4楽章:25:48
ウィレム・メンゲルベルク協会の1938年5月31日のデータ
第1楽章:14:17
第2楽章:11:34
第3楽章:16:06
第4楽章:26:16
ウィレム・メンゲルベルク協会の1938年6月1日のデータ
第1楽章:15:11
第2楽章:12:18
第3楽章:16:38
第4楽章:27:00
CD再生音の波形
MR2170
第1楽章
第2楽章
第3楽章
第4楽章
CD 918
第1楽章
第2楽章
第3楽章
第4楽章
VN-01825
第1楽章
第2楽章
第3楽章
第4楽章
データの見方について
CD記載の演奏時間(CDのトラック再生時間)は、実はそうそう当てになるものではありません。
楽章間の間合いを入れているのか、入れていないのか、
そもそも第1音から最後の音で計測しているのか、いないのか、
定義があやふやなうえに、メーカー側で誤参照(つまりコピペミス)や、記載ミスまで想定できるからです。
一方、再生音の波形の方ですが、波形の振幅の大きさでは判断できません。
CD毎に収録時の音量レベルが独自に調整されており、違っているからです。
波形を元に、演奏が同じかどうかを判断する場合は、片方が一定の音量だが、別な方には盛り上がり(起伏)があるかで見ます。
あるいは強弱(メリハリ)を付けている箇所の波形の傾きで判断します。
別な録音であっても、似たような演奏スタイル、同じような強弱をつけられていると、波形での識別は不可能です。
ここでは第4楽章に注目して比較します。
念のため、1938年のCD3種に加えて、1940年5月2日の録音(ARPCD192)も入れます(現在メンゲルベルクの第9はこの組合せで全てです)。
上から下に向かって以下の順になります。
CD918(1938年)
MR2170(1938年)
VN-01825(1938年)
ARPCD192(1940年)
波形からCD918とMR2170は、ほぼ同様の傾向が見て取れます。振幅には大きな違いがみられますが、これはCD化した際にマスタリング技術担当者が、ある周波数帯域をカットするかしないかの違いであって、内容の相違ではありません。つまり、波形から見るとCD918とMR2170は、同一の録音ように思われます。
その2つに比べ、VN-01825は、明らかに違う傾向を示す場所がいくつかあります。
まず、第1主題が低弦からヴィオラ、ヴァイオリンと弾き継がれて上昇してゆくところでは、上記の2つの演奏では、オーケストラの音も次第に音量を上げてゆくのですが、VN-01825では、割と同じ音量を保っています。その傾向は、図に矢印をおいた他の2か所でも同様です。
また、上記の2つの演奏では14分後、楽譜で言うとオーケストラの間奏的な長い展開部を経て543小節からffで第3群の全奏に入る直前ですが、極端なまでにディミヌネンドします。ところが、VN-01825ではそう極端でもありません。演奏時刻も14分より前にきています。
波形の比較からでは、こんな説明になってしまいますが、実際に聴いていると、上記2つは振幅の激しい表情付けがなされている一方、VN-01825では、表情云々というよりも一気呵成の勢いで突き進んでいる、といった印象です。
参考までに、1940年5月2日の録音では、92小節から102小節までのチェロとコントラバスによる主題の演奏が極めて弱音で演奏されることが大きな特徴です。ここは1938年の2種類の録音と、大きく違うところです。ちなみにこのARPCD192ではノイズ除去されていますが、他のCD では、ここの部分でプチプチとノイズが入っています。低弦の奏する旋律はほとんど聴こえず、ノイズだけが耳につくという感じです。
一番頼りになるには耳
結局、実際の音を耳で聴いてみることをおすすめします。
例えば第4楽章の冒頭のレシタティーヴォを聴き比べてみると、2種類の演奏の違いが分かりやすいと思います。
そして決定的なことに、1938年6月1日としている録音には、第4楽章の4分前(ほぼ3分52秒)、スコアでいうと100小節あたりのチェロとコントラバスが第1主題を弾いているところに、比較的大きな咳払いの会場ノイズが入っています。
一方で、1938年5月31日の録音の方には存在していません。(もちろん1940年5月2日の録音にもありません)
蛇足
別途1940年の各CDの録音も波形比較しますが、波形を見るとリマスタリングの傾向といいますか、特徴が伺われて興味深いものがあります。
フーリエ変換をかけて、丁寧に分析をしてみないとハッキリとはいえませんが、1938年の録音ではMR2170のCDセットが、ノイズも含めて録音情報が一番豊富なように見て取れますし、実際に聴いた感じも同様の印象でした。
もちろん、それが聴きやすいかどうかとは、別の話になります。