メンゲルベルク チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番の謎


結論

ドイツ・テレフンケン盤とチェコスロバキア・ウルトラフォン盤の2つの録音は、第2楽章の後半が別録音と考えられる。

CDデータ

CD型番

WQCC-354 (4枚組の4枚目)

CDレーベル

タワーレコード (WARNER X TOWER RECORDS/Detour Collection)

収録内容

<DISC4>
7. ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23(テレフンケン版)
8. ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23(ウルトラフォン版)

CD4

演奏

ウィレム・メンゲルベルク(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
コンラート・ハンゼン(ピアノ)

WQCC351-4-3

 

WQCC351-4-2

演奏時間

ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23(テレフンケン版)

第1楽章 17:32 (4:15+4:38+4:33+4:06)
第2楽章 6:38 (3:01+3:37)
第3楽章 6:40 (2:34+4:06)

ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23(ウルトラフォン版)

第1楽章 17:33 (4:15+4:39+4:34+4:05)
第2楽章 6:38 (3:01+3:37)
第3楽章 6:40 (2:34+4:06)

録音日時

ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23(テレフンケン版)

1940年7月11日 ベルリンのフィルファーモニッシェンザールにて

ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23(ウルトラフォン版)

1940年7月11日 ベルリンのフィルファーモニッシェンザールにて

メンゲルベルクのチャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 : テレフンケン盤とウルトラフォン盤の詳細比較

経緯

このCDでは、ドイツ・テレフンケン盤と、チェコスロバキア・ウルトラフォン盤の、2つの録音が収録されています。

ドイツ・テレフンケン盤のSPと、チェコスロバキア・ウルトラフォン盤のSPとでは、同じように聴こえるものの、ダイナミック感や、SP盤の溝の作りが違うことから、異なる録音か、少なくともテレフンケン盤の第2楽章は別の日の録音ではないかと、CD付属のブックレットで指摘されています。

ブックレットでは、このピアノ協奏曲は、交響曲第5番と同じ時に録音されています。

1940年7月8日と11日:交響曲第5番
1940年7月11日:ピアノ協奏曲第1番

一方で手元の資料によりますと、以下のように違う日付となっています。

1940年7月8日、10日、11日:交響曲第5番
1940年7月9日:ピアノ協奏曲第1番

このことは、ピアノ協奏曲が1940年7月8日~11日の間に複数回録音された可能性を示唆しています。

あるいは、この期間中に行われたリハーサルを収録した音源が使われているのかもしれません。

確かに、第2楽章は、ドイツ・テレフンケン盤と、チェコスロバキア・ウルトラフォン盤とでは、聴いた印象が異なります。

それでは、以下に詳細データを比較してみましょう。

テレフンケン盤:[独テレフンケン SK-3092/95]の原盤番号と演奏時間

第1楽章 17:32 (4:15+4:38+4:33+4:06)

原盤1 マトリックス番号:025083-I 4:15
原盤2 マトリックス番号:025084-I 4:38
原盤3 マトリックス番号:025085-I 4:33
原盤4 マトリックス番号:025086-I 4:06

第2楽章 6:38 (3:01+3:37)

原盤5 マトリックス番号:025087-I 3:01
原盤6 マトリックス番号:025088-I 3:37

第3楽章 6:40 (2:34+4:06)

原盤7 マトリックス番号:025089 2:34  (※テレフンケン盤の原盤7のみ”-I”の語尾がない)
原盤8 マトリックス番号:025090-I 4:06

ウルトラフォン盤:[チェコ ウルトラフォン G-14273/76]の原盤番号と演奏時間

第1楽章 17:33 (4:15+4:39+4:34+4:05)

原盤1 マトリックス番号:025083 4:15
原盤2 マトリックス番号:025084 4:39
原盤3 マトリックス番号:025085 4:34
原盤4 マトリックス番号:025086 4:05

第2楽章 6:38 (3:01+3:37)

原盤5 マトリックス番号:025087 3:01
原盤6 マトリックス番号:025088 3:37

第3楽章 6:40 (2:34+4:06)

原盤7 マトリックス番号:025089 2:34
原盤8 マトリックス番号:025090 4:06

オランダ メンゲルベルク協会の記録による演奏時間

録音年月日:1940年7月9日

第1楽章 17:52
第2楽章 6:45
第3楽章 6:53

テレフンケン盤とウルトラフォン盤の原盤別波形比較

第1楽章

テレフンケン原盤1 マトリックス番号:025083-I
(Telefunken)025083-I
ウルトラフォン原盤1 マトリックス番号:025083
(Ultraphone)025083

[結論]テレフンケン原盤1とウルトラフォン原盤1は、同一録音。


テレフンケン原盤2 マトリックス番号:025084-I
(Telefunken)025084-I
ウルトラフォン原盤2 マトリックス番号:025084
(Ultraphone)025084

[結論]テレフンケン原盤2とウルトラフォン原盤2は、同一録音。


テレフンケン原盤3 マトリックス番号:025085-I
(Telefunken)025085-I
ウルトラフォン原盤3 マトリックス番号:025085
(Ultraphone)025085

[結論]テレフンケン原盤3とウルトラフォン原盤3は、同一録音。


テレフンケン原盤4 マトリックス番号:025086-I
(Telefunken)025086-I
ウルトラフォン原盤4 マトリックス番号:025086
(Ultraphone)025086

[結論]テレフンケン原盤4とウルトラフォン原盤4は、同一録音。


第2楽章

テレフンケン原盤5 マトリックス番号:025087-I
(Telefunken)025087-I
ウルトラフォン原盤5 マトリックス番号:025087
(Ultraphone)025087

[結論]テレフンケン原盤5とウルトラフォン原盤5は、同一録音。


テレフンケン原盤6 マトリックス番号:025088-I
(Telefunken)025088-I
ウルトラフォン原盤6 マトリックス番号:025088
(Ultraphone)025088

[結論]テレフンケン原盤6とウルトラフォン原盤6は、別録音。

テレフンケン盤では19秒前後のオーケストラの伴奏がよく聴こえていますが、ウルトラフォン盤では、ほとんど聞こえていません。24秒以降は両盤ともオーケストラの伴奏は同じように聴こえます。また中間部まではウルトラフォン盤の方が1秒近くゆっくりしていますが、最後にはほぼ同じタイミングで終わっています。

演奏上の瑕疵:テレフンケン盤はなし、ウルトラフォン盤はなし
ノイズ:テレフンケン盤はほぼなし、ウルトラフォン盤は全体を通して大小あり
聴いた印象:テレフンケン盤はより抒情的、ウルトラフォン盤はよりダイナミック (個人により印象は異なります)

全くの想像ですが、本番収録したものがウルトラフォン盤。しかし第2楽章(原盤6)のノイズレベルが高かったため、テレフンケン盤作成時に、原盤6をリハーサルで試験収録していた音源と差し替えた。と、このぐらいしか想像できません。


第3楽章

テレフンケン原盤7 マトリックス番号:025089
(Telefunken)025089
ウルトラフォン原盤7 マトリックス番号:025089
(Ultraphone)025089

[結論]テレフンケン原盤7とウルトラフォン原盤7は、同一録音。

テレフンケン原盤7のみ、マトリックス番号が025089-Iではなく、025089と、ウルトラフォン原盤7と同じです。

他のテレフンケン原盤は、マトリックス番号に”-I”が付いています。

想定できる理由は2つです。

・ 一つは単なる記載ミス。マトリックス番号に”-I”を付け忘れただけ。

・ もう一つは、他の原盤はテレフンケン側の必要から何らかの処理をかけたが(原盤6は音源を差替え)、原盤7だけは、その必要がなかった。


テレフンケン原盤8 マトリックス番号:025090-I
(Telefunken)025090-I
ウルトラフォン原盤8 マトリックス番号:025090
(Ultraphone)025090

[結論]テレフンケン原盤8とウルトラフォン原盤8は、同一録音。(テレフンケン原盤8には無録音帯が付属)